大自然の中にたたずむ旧養蚕農家を利用した農家民宿
「子どもをはじめとして、お客さんをいかに楽しませるか。これが農家民宿を営む上での基本的な方針ですね」
人懐こい笑顔でこう語るのは、猿ヶ京温泉から北西に位置するみなかみ町相俣白石で「農家民宿 山信」を経営する林信一郎さんです。周囲は、谷川岳・三国山の麓、利根川の源流域にあり、「関東の水瓶」と称される自然と温泉が豊かで風光明媚な地。大自然の中で、心ゆくまで休日を満喫することができます。
山信は、築40年ほどの民家。かつての大きな養蚕農家だけに軒の深い立派な屋根が特徴です。この大きな家で、そして、人を楽しませることに尽力する林夫妻のもと、楽しい時間を過ごすことができそうです。
農業、林業、田舎暮らし等々、豊富な体験メニュー
山信の特色の一つは、豊富な体験メニューにあります。
「農業体験としては、田植えや種まき、収穫体験。稲作のほかに、トマトやキュウリ、ナス、ジャガイモ、サツマイモなどの農作業も体験できます。また、チェーンソーの資格を持っていますので、林業体験にも対応可能です。さらに、みそづくり、こんにゃくづくり、餅つきなどの体験も用意しています。流しそうめん体験は、竹を切るところからのスタートです」
お客さんは、子どものいる家族のほかに、女性同士のグループ客も増えているそう。コロナ禍前はみなかみ町と交流が盛んな台湾をはじめとする外国人も多かったそうです。
また、教育体験として小中学生のグループも受け入れてきました。「子どもたちと一緒に笑いながら過ごしていると、こちらも若返っていくような気分」と、72歳になる林さんは笑います。
お客さまから「珍ちゃん」と呼ばれ、ファンも多い
休む間もなく駄洒落を連発する林さん。こんな気さくで明るい人柄が、たくさんのファンを持つ要因の一つなのでしょう。宿には、宿泊者が記すノートがあり、それを読むと、本名の信一郎をもじって「珍一郎」「珍ちゃん」とお客さんから親しまれていることが分かります。
「とにかく、人が好き。頑張れば頑張っただけ、お客さんも喜んでくれる。それが嬉しい。だから、農家民宿の仕事は私にとって天職かもしれません」と笑顔で話してくれました。
郷土料理など、ここでしか味わえない料理も魅力
山信に宿泊した場合の一日の過ごし方はどのようなものなのか、林さんに聞いてみました。
「起床したら、まずは散歩。私が飼っている秋田犬を連れて、みんなで赤谷湖畔を散策したら、宿に戻り朝食。夏は新鮮な空気を吸いながら食べられるよう建物の外に置いたテーブルで。その後は、本人の希望に基づく体験メニューの時間。昼食は屋外でバーベキューです。体験が終わった後、夕方にはまんてん星の湯(猿ヶ京温泉)や遊神館(奥平温泉)などで入浴し、戻ってきたら夕食です。夕食時は、居間に集まり、みんなで語り合いながら食べます」
夕食は山菜料理やすいとんなどの郷土料理を出しています。米はもちろん、自家栽培したものです。昼食のバーベキュー、そして語らいながらの絶品夕食、散歩の後の朝食と、三食すべてが忘れられない思い出になるような味わいと言えるでしょう。
1棟貸しをはじめ、田舎を元気にするための取り組みをもっと
山信の敷地内には、建築が江戸時代に遡るとされる、林さんが生まれ育った古民家も残されています。「古民家を利用して、2022年から新たに一棟貸しを始めました。グループを中心に需要があり、囲炉裏を利用して自炊もできます」と、林さん。さらに地域内でもう1棟を借りて、農家民宿を増やしたいとの構想も抱いています。
「相俣白石地区も、ご多分に洩れず、高齢化から空き家も目立つようになってきました。そんな空き家を農家民宿に再生すれば、地域の活性化にもつながります。これまでの経験から日本の田舎暮らしが外国の人に人気があることも分かりましたし、コロナ禍が終わったら、国内はもちろん、海外からの誘客にも努めていきたい。また、どろんこ祭りなどのイベントも企画し、少しでも田舎を元気にしていきたいですね」
「おじじ」「珍ちゃん」と、子どもたちから親しまれる林さんの挑戦は、まだまだ続いていきそうです。
(取材日:令和5年1月)
「農家民宿 山信」について