里山の景観を生かした「里山のテーマパーク」としての歴史
「ここは里山のテーマパークなんです。農村の原風景を中心に、街道があり、さまざまな体験ができるたくみの家があり、古民家や果樹園もある。多彩な里山景観の魅力が凝縮されたエリアです」
こう語ってくれたのは、株式会社たくみの里の総合企画課長、本多結さんです。その歴史を聞いてみると、元来、田園や古民家が点在する純農村地帯だったそうです。
「1983(昭和58)年、新治村(現みなかみ町)が道祖神や庚申塔などエリア内に点在する9か所の野仏をめぐるスタンプラリーを企画したところ、年間2〜3万人が訪れるほどの好評。そこで、地域の人たちが冬の農閑期に手仕事として営んでいたわら細工や木工細工などの“体験”を切り口にした『たくみの家』の整備がはじまり、最初は6軒からのスタートでした。以降、少しずつたくみの家は増えていき、現在は25軒で、さまざまな手技を用いた作品づくりを体験することができます」
1996年には、農産物直売や総合案内、レンタサイクルの受付など、たくみの里の拠点となる豊楽館(現道の駅「たくみの里」)ができ、2003年には年間47万人が訪問するなど、県内でも屈指の観光スポットとなりました。
里山に点在する25軒の「たくみの家」で多彩な体験
今で言う「グリーン・ツーリズム」の先駆者として始まったたくみの里。素朴な昔の里山が広がる中に、「たくみの家」が点在。それらは陶芸、草木染め、和紙、ガラス細工、木工などの手細工の他に、農産物の加工体験やデザートクッキングなど広範囲にわたっています。「かつてみなかみ町にあったカスタネット工房の志をつぎ、カスタネットの製作体験もできる『森のおもちゃの家』をはじめ、注目を集めるスポットが目白押しです」と本多さん。
たくみの家は、計25軒。「これだけの体験ができるスポットが集積している場所は例がないのではないでしょうか。家族やグループで訪れても、何かしら自分の好きなものを見つけられますし、次から次に挑戦したいものがある場合はリピーターになる人も多い」と本多さんは言います。
さらに本多さんは、たくみの家の魅力について次のように語っています。
「一つはそれぞれのたくみの家を主宰する人のパーソナリティーですね。“人”にファンが付くのです。そして、多くのたくみの家では、複雑なものづくりの工程を1〜1時間半で楽しめるよう簡略化している点も重要。いわば、美味しいところをエッセンスとして楽しめるというわけです。時間も限られているから、一日に2〜3の体験を楽しむ人もたくさんいますよ」
自家菜園で育てた花々を自由に組み合わせられる「ドライフラワーの家」
たくみの家の一つ「ドライフラワーの家」を運営する藤井輝子さんにお話を伺いました。「まさか自分の趣味を仕事にできるとは思っていなかったんですよ」と話す藤井さんは、1999年に「ドライフラワーの家」をスタート。
「ドライフラワーが体験できるスポットはほかにも全国にありますが、ほとんどの場合、用いる素材は指定されたもの。ところが、『ドライフラワーの家』では常時十数種類、色違いまで入れれば、さらに多くの素材の中から好きなものを選べるのです。花々は、夫が菜園で栽培したものを用いています」
ドライフラワー体験は、アレンジメントとハーバリウムの2種類。「どちらも土台やビンを購入すれば、それ以外の料金は必要ありません。つくり方の説明・指導をした後は、自分好みの作品づくりに挑戦します。ハーバリウムは30分、アレンジメントは1時間程度で完成する人が多い中で、こだわりを持って2時間以上もかけて集中する人もいますよ」
お客さんの8割以上は女性で、家族や若いグループがメインで、リピーターも多いようです。学校の教育体験で訪れるケースもあります。
「乾燥した花を通して自然を味わえます。インテリアとして部屋に置いておけば、癒し効果も高い。ぜひ、自分の好きな花を組み合わせて作品づくりに挑戦してほしいですね」
わらアートや竹灯籠など、里山の魅力を次々に発信
このように、体験施設が集積したスポットとして人気を博してきたたくみの里ですが、本多さんの言うように「里山のテーマパーク」として幅広い魅力があります。特に2020年に、たくみの里の運営がそれまでの一般財団法人から株式会社たくみの里へと会社組織となってから、「里山」を切り口にした展開が加速してきました。
「最初に始めたのが、“わらアート”でした。世界一大きなわらアート作品の“迷惑龍”やイノシシ、ウサギなど、現在、7種類が点在しています。2022年は11〜12月の2か月間展示したところ、なんと集客数は11月が年間最多となりました」
ちなみに「迷惑」とは中国語で「見当がつかない」といった意味合いがあり、たくみの里の象徴であり、理想を表しているといいます。
「2020年から毎冬、「七宝焼きの家」のたくみ・福田さんが中心となり、たくみの里の熊野神社を舞台に『かがよふあかり竹灯籠』を実施してきました。みなかみ産の竹から手づくりされた竹灯籠が、冬の静寂な夜を彩るイベントとして定着しています。冬の人気イベントになりました」と本多さんも手応えを感じているところです。
一方、みなかみ町新治地区唯一のスーパーが閉店したことを受け、道の駅「たくみの里」内に食料品・日用品を扱うスーパーを2022年10月に開店させるなど、地域経済の循環についても力を入れています。
「たくみの家を基本としつつ、里山を切り口とするアトラクションを年間通して企画して、観光と地域の暮らしの間に良いサイクルをもたらしたい」
自然派ワインづくりのプロジェクトがスタート
たくみの里は、野仏めぐりをスタートした1983年から40年が経ち、グリーン・ツーリズムの先駆者として成熟し、さらに新たな展開期を迎えています。体験などのアトラクションはもちろんのこと、地元産の食材を用いた料理店、地元産大豆を用いた豆腐屋をはじめ、食文化についても充実してきました。
そんなたくみの里が、新たなプロジェクトとして取組んでいるのが、ワインづくりです。「たくみの里でも、近年、高齢化が進み、耕作放棄地が増えています。私たちは、耕作放棄地をワイン用ブドウ畑として再生し、里山の美しい景観を守っていくこととしました。目指すのは、極力農薬や肥料を使用しない、日本の風土に合った山ぶどうで造る自然派ワインです」
ワイナリーも開設し、醸造まで行う予定。また、ブドウ栽培の指導とワイナリー開設、醸造などは、フランスの有名自然派ワイナリーで栽培長を務めた専門家に協力してもらうそうです。
里山の魅力を守っていくために、たくみの里の新たな挑戦が始まっています。
(取材日:令和5年1月)
「たくみの里 豊楽館」について
「たくみの里 ドライフラワーの家」について