INTERVIEW

薄根地域ふるさと創生推進協議会

石墨棚田を活用したオーナー制の米づくりをはじめ、
田舎暮らしを体感できる多彩な体験プログラムを満喫できる。

石墨棚田を起点とする地域活性化の活動

 群馬県沼田市薄根地域に広がる美しい石墨棚田。芽吹きの春から始まって、水が張られた田植えの時期、夏になると緑が濃くなって、実りの秋は黄金色、そして冬は雪景色。棚田の景観は四季折々に移ろってゆきます。
 石墨棚田は、2022(令和4)年3月に、農林水産省により「つなぐ棚田遺産〜ふるさとの誇りを未来へ〜」に認定され、さらに群馬県内唯一となる指定棚田地域にも指定されました。
 石墨棚田を守り、地域の活性化に結びつける活動を行っているのが、2018(平成30)年12月に設立された、地域住民と近隣の有志や団体で運営する「薄根地域ふるさと創生推進協議会」です。
 同協議会の山口耕会長、小池大介副会長、桜井勇一事務局長に、石墨棚田の魅力や活動内容についてうかがいました。

山口耕会長

小池大介副会長

桜井勇一事務局長

耕作放棄地を開拓し、棚田オーナー制を導入

「薄根地区は、学校区が一つで元来まとまりが良いと言われていましたが、近年、人口減少や耕作放棄地が目立ち始めたことから、将来の地域のあり方を考える薄根地区未来委員会を設置し、地域の活性化を目指すこととなったのが2017年でした。こうした状況に対して突破口を開こうと、石墨棚田の保全・活用を中心として、かつて飛び交っていたホタルを再生させ、活性化に結びつけようということになったのです」
 NPO法人沼田未来の会や石墨未来の会などの諸団体が参加して設立されたのが、薄根地域ふるさと創生推進協議会です。山口会長は「スローガンは、『棚田の再生とホタルの復活』でした」と振り返ります。
「協議会設立後、まず取り組んだことは、耕作放棄地を借り上げ、ジャングルのように荒れていた田んぼの草刈りと整地作業です。メンバーが持ち寄った重機や草刈り機を用い、背の丈もあるような草を伐採しました。本当に大変な作業でしたが、ここを突破しないと次に進めないと思って、みんなで力を合わせたんです」
 それが終わると、2019年4月に棚田オーナー制を導入し、米づくりを中心とする農業体験をスタートしました。希望者には1アールのオーナーとなり、田植えや稲刈りなどを共同作業してもらい、1口につき収穫した米40㎏をオーナーに贈る仕組みです。
「各種体験活動の拠点となるのが『くわのみハウス』。集落内で空き家となっていた古民家を借り受け、みんなで改修したものです。ここを整備してから、それまでと比べて活動が円滑に進むようになりましたね」

70アールを、26組のオーナーで耕作

「協議会のメンバーのほとんどは、兼業農家。現役時代は平日に勤めをし、休日に農作業をしていました。このプロジェクトと同時に本格的な米づくりに挑戦することになったのです」
 耕作放棄期間が長かったため、1年目の収穫状況は不良でしたが、2年目以降、徐々に改良し、2022年の食味値は最上クラスの品質になっています。
 託される耕作地も年ごとに増え、2022年現在、約70アールです。それとともにオーナーも26組にまで増えました。「会員は首都圏方面のファミリー層が多く、多いところでは1家族7人で参加しているケースもある」そうです。

棚田再生とともにホタルなどの生態系が復活

「ホタルについては、餌でもあるカワニナを放流したのみですが、田んぼを再生させるとともに、2年目から乱舞するくらいの勢い。さらに、ドジョウやタニシ、サワガニ、イモリなども、『嘘でしょう!』というくらいにどんどん増えていきました。棚田を再生させたら、自然の力が甦るように、元々の生態系が戻ってきたんです」と3人は喜んでいます。
 ホタルの見ごろは、6月下旬から7月上旬までで、最初はゲンジボタルが多く、後半はヘイケボタルも見られるそうです。カワニナは地元の小学生に育成・放流してもらうなど、地域との連携を大切にしてきました。
「この時期には会員向けの観察会に合わせてホタル祭りを実施し、オーナーや地域の人たちをはじめ、多くの見物客でにぎわっています。楽しいイベントですね」

年間通して多彩な体験プログラム

 オーナーになると、田植え、観察会(ホタル祭りと同時期)、稲刈り、収穫祭と春から秋まで活動ができます。それ以外にも、野菜収穫体験やりんご収穫体験、芋掘り体験、干し柿づくり体験、みそづくり体験など体験メニューが豊富。
「なかでもみそづくりは大人気で、毎年参加者が増え、2022年は4回に分けて実施し、合計40人が参加しました。大豆、麹など地元産の食材を用いて無添加でつくります。できたものは参加者がそれぞれ自宅に持ち帰り、1年間発酵させたら完成です」
 家族連れが多いため、各体験イベントでは、子どもたちが楽しめるよう趣向を凝らしています。
「子どもたちはサワガニや虫取りに夢中。観察会のときなどにはニジマスをプールに放流してのつかみ取りを実施し、取れたものは串刺しにして囲炉裏で焼いて食べられるようにしています。これも大好評ですね」

「やっぱり労働の後の食は大きな楽しみですよね。田植えや稲刈りなどの時には、オーナーと家族、協議会のメンバーなど約100人ほどが集まり、昼食には災害時の炊き出しに使われるような大きな鍋でつくった豚汁や棚田米のおにぎりなどをふるまうと、大好評です。収穫祭では棚田で収穫した米を用いて餅つきを行い、できたての餅をエゴマみそや大根おろしなどをからめてみんなで味わいます。地域の人たちには食べ慣れた味なんですが、その素朴さが気に入っていただているようです」
 こうした都会ではなかなか味わえない素朴な味が、農業体験と相まって、会員の心を掴んでいるのでしょう。宿泊を希望する人には、地域内で農家民泊を体験することもできます。

棚田が家族の絆を強くする

「沼田は第2のふるさとです」
 都内から通う棚田オーナーの一人が語る言葉は、山口会長をはじめ会員たちにとって何よりもうれしいものです。
 棚田オーナーのほとんどは家族ですが、中には三世代そろってやってくる家族も少なくありません。祖父母が生き生きと孫と一緒に田植えや稲刈りをしている姿が見られます。「棚田が家族の絆を再認識し、多世代交流の場ともなっているんですね。家族で一つの作業のために力を合わせるというのは、またとないコミュニケーションの場となっているのだと思います」

持続可能な活動に向けて

「持続可能な活動とするためには、オーナー制度の継続とともに活動の後継者を増やし、機械の導入も進め、米の販売を行うことも必要だと考えています。さらに、企業や学生を対象とする体験事業、小中学校との連携を深め地元愛につなげるような活動を開始し、次世代へ伝えていきたい」と山口会長は語っています。
 2022年11〜12月には、石墨棚田をイルミネーションで装飾するイベントも実施。新たな魅力を引き出し、より多くの人々に知ってもらう取り組みも始まりました。グリーンツーリズムの拠点として薄根地域の展開が、ますます興味深いものとなっていきそうです。

(取材日:令和4年11月)

「薄根地域ふるさと創生推進協議会」について

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